皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「なんにしてもこうして招待状が届いているのだ。エリーヌもたまには田舎町を出て、ほかの貴族たちと交流するのもいいのではないか?」
「おじ様、ランシヨンはのどかではありますけど、決して田舎ではないと思いますわ」


ここランシヨンは一年を通じて温暖な気候のため小麦の栽培に適しており、モンペリエ大陸にある国の中でも断トツの収穫量を誇る。港から皇都へ向かう途中にあるため、多くの交易商人が集う街でもある。

エリーヌが生まれる以前は近くを流れる川の氾濫による洪水や大雨による土砂災害など、自然に起因した厄災に見舞われがちだったが、それもこの十九年間起きていない。

これまで一度もランシヨンを出たことのないエリーヌにとっては、とても愛着のある街だ。


「いやいや、今のはまぁ言葉の綾というか。エリーヌもそろそろ年頃だし、そういった社交の場に出るのもいい経験になると私は思うがね」


十一歳のときに両親を流行り病で相次いで亡くして天涯孤独になったエリーヌは、当時父が腹心として仕えていたエドガーの厚意で養女となった。

ミッテール皇国では十七歳から社交界デビューできるが、エリーヌは十九歳になった現在もしていない。
< 6 / 321 >

この作品をシェア

pagetop