皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
よく眠れないのは忙しすぎるせいではないだろうか。国内外問わず、いろいろなことを同時進行で考えなければならないから、頭の中が一向に休まらないのかもしれない。

(相当お疲れでしょうね……)

リオネルは、部屋のいたるところに灯るランプを寝たまま指先ひとつで消した。

部屋が暗闇に包まれる。家族以外の人が隣に寝るのは初めてのため落ち着かない。それも見目麗しい皇帝なのだ、緊張して当然だろう。
身じろぎするのも躊躇われ、仰向けのまま暗闇に波打つ天蓋を眺める。

(皇帝陛下の結婚を待ち望んでいた方たちには申し訳ないけれど、ひとまず夜伽がなかったのはホッとしてしまったわ……。覚悟していたとはいっても、初夜は不安だったもの。そういえば、おじ様は無事に道中の宿に到着したかしら)

婚儀のあと皇都を発ったエドガーを思い浮かべて、皇帝が隣で寝ている緊張感を解そうと試みる。

(マーリシアはどうしてるかな。おじ様も私もいない屋敷で寂しがっていないといいのだけど)

いつもエリーヌが手入れしていた庭の花々も、これからしっかりお世話してもらえるだろうかと心配だ。エリーヌの頼みであれば、使用人たちも手を抜かないだろうとは思うが。

そんなことをぼんやりと考えているうちに、エリーヌはいつの間にか眠りについていた。
< 62 / 321 >

この作品をシェア

pagetop