皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
皇都から遠く離れているせいもあるが、ランシヨンでの穏やかな暮らしが好きなためでもある。華麗な反面、窮屈なイメージのある貴族の世界より、自然に恵まれたこの土地で伸びやかに静かに暮らしたいと考えていた。


「お姉様、お城に行くの?」


それまでエリーヌの隣で黙ってクッキーを食べていた、義妹のマーリシアが丸い目をくるくるさせて見上げる。

妹とはいっても彼女はエドガーの実の娘であり、エリーヌと血の繋がりはない。
養女として迎えられたのはマーリシアが一歳に満たないときだったため、彼女にしてみれば実の姉同然だろう。エリーヌの両親同様、流行病で亡くした母親代わりの側面もあるかもしれない。
兄弟や姉妹のいないエリーヌにとっても、かわいくて仕方のない妹である。


「そうね……」


いくら気が進まないとはいえ、侯爵令嬢となったからには好き嫌いや希望が通らないのは心得ている。


「お姫様になるの?」
「ふふっ、ならないわよ。今みたいに、貴族の方たちとお茶をするだけ」
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