皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「やはり図星なんですね。あのときの陛下、いつもと様子がちょっと違いましたし」
「いつもと違う?」
「呆けたようにと言いますか、妃殿下をじっと見つめて」


たしかにあのとき、リオネルは彼女に見入ってしまった。どこかで会ったことがあるように感じたためだ。
いや、それだけでなく懐かしさまで覚えたのだ。以前会っていなければ、そのような感覚にはならないだろう。他人の空似と言われればそれまでだが。


「まぁ、妃殿下はお美しいですから無理もありませんが」


そう、彼女は美しい。パーティーには大勢の令嬢たちが招かれていたが、その中でも際立っていた。皇都では洗練された女性はいくらでもいるのに透明感が違う。

(私も、ほかの男たちのように彼女に見惚れただけなのか)

表面的な美しさだけに心が惹かれるなど、人間としての鍛錬が足りないとリオネルは自戒して首を横に振るが、ふと今朝の彼女を思い出す。

サクランボの種を出すに出せず飲み込んだエリーヌは、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
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