皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
まるで昔から知っているような問いかけ方をリオネルも訝しがる。


「最後には『お会いできて大変うれしく思います』とおっしゃって名残惜しそうに立ち去りましたけど」


オスカーはリオネルが皇帝に即位するにあたり、表向きは賛成しながら裏ではただひとり難色を示していた男である。

戦いに明け暮れていたリオネルでは皇帝に相応しくないと周囲に漏らしていたのだとか。アンリが成人するまでの間であれば、皇帝の弟である自分のほうが適任だと。
皇族や大公たちに自分を推すよう根回ししていたそうだが、結局は誰も賛同しなかった。

人当たりのいい男だが、油断ならない男だとリオネルが感じるのは、そういった言動が要因だろう。

(いや、それだけではないか。ほかになにかされたけではないが、どうもあの男は神経に障る)

つまりそりが合わないのだ。無理に合わせるつもりも必要もないため、リオネルは距離を置いている。

だがしかし、エリーヌに接触を図ろうとしているのだとしたら、注視しなければならない。


「なにか変わったことがあれば、すぐに報告してくれ」
「承知しました」


ニコライは胸に手をあて仰々しく頷いた。
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