私の好きな人には、好きな人がいます
3話 D組
あの日から数日経って、愛華は椿へのお礼のプレゼントを用意した。
迷惑になっても申し訳ないので、実用性を重視してスポーツタオルを用意した。これなら部活動でも使えるし、気に入らなかったら雑巾にしてもらっても構わない。椿がそんなことをするとはもちろん思えないが、これなら迷惑にはならないのではないかと考えた。あとはおまけにちょっとしたお菓子も入れて、一緒に紙袋に詰めた。
昼休みも少し経って、皆が昼食を終えゆっくりする頃。
愛華は小さな紙袋を持ってD組に向かった。
自分の教室以外に行くことは滅多になく、知っている友人もいないので何だか緊張する。どう声を掛けるべきなのだろうか。
廊下からD組の教室を少し覗いてみると、窓際で楽しそうにお喋りをする椿の姿を見付けた。仲良しの男子グループだろうか、三、四人が集まっている。
(声を掛けたい!けど、今すごく盛り上がっていて楽しそう…)
愛華が声を掛けるタイミングを見計らっていると、その男子グループに一人の女子生徒がやってきた。椿に声を掛けると、ノートを差し出す。椿は頭を下げながらノートを受け取っていた。申し訳なさそうにしているが、何だか嬉しそうでもある。
(あの子、誰だろう?)
D組の子なのであろうが、やたらと椿と親しそうである。ふわふわの髪は胸元でくるんとなっていて、ベージュのカーディガンに膝より少し短めのスカート。愛華からすると、とても垢抜けている感じがした。
「誰かに用事か?」
後ろから急に低い声がして、びっくりしながらも愛華は恐る恐る振り返る。
そこには背の高い見たことのない男子生徒が立っていた。八クラスもあれば当然見たことのない人もいるだろうが、こんなに容姿が整っていて涼やかな目元をしているのだ、女子から相当モテそうなものだ。A組でも噂になっていてもおかしくないはずだが。
(あ、もしかして春に来た転入生の人かな)
二年生に進級した頃、どこかのクラスに転入生が入ったと聞いたことがあった。もしかしたら彼が件の転入生なのかもしれない。
愛華の視線の先を追った彼は、窓際にいる椿達を確認する。
「誰?佐藤?」
「え?」
佐藤さんがどの方か全く存じ上げない。きょとんとしてしまった愛華に、彼は次の候補を挙げる。
「三浦か?」
その名前にドキッとしてしまい、肩を揺らしてしまった愛華を彼は見逃さなかった。
「呼んでくるけど」
「あ!いえ!出直します!!」
何故か渡す勇気が引っ込んでしまった愛華は、彼に一礼すると慌ててA組へと引き返した。