私の好きな人には、好きな人がいます
そこにふと影が差して、愛華と美音は顔を上げる。心底呆れたようなため息が聞こえてきた。
「はぁ…佐藤、お前またか」
そこにいたのはD組の転入生である、「藤宮」と呼ばれていた生徒だった。
「あ、藤宮くん!」
「お前、この前もノート落としてただろ。ほんとドジだな」
藤宮の辛辣な物言いにも特に気を悪くすることなく、美音は平然と言い返す。
「もうっ!藤宮くんはいつもそういう言い方する!」
「お前がドジだからだろ」
「ドジドジ言わないでよねっ!ドジになっちゃうじゃん!」
「もうドジだろ」
むむむと言い返せずに頬を膨らませる美音に、愛華はあれ?と首を傾げる。
(美音さんのこの感じ。もしかして、…)
愛華が二人をぽかんと見つめていると、藤宮が愛華に視線を向けた。最初は誰だこいつ?みたいな顔をしていた藤宮だったが、何かに思い至ったようで愛華に向けて口を開く。
「あ、三浦の」
「「え?」」
愛華と美音の声が重なる。
美音が愛華を振り返ると、そこには嬉々とした表情が窺えた。
「椿の友達?も、もしかして彼女…?」
「かっ……!?」
愛華は慌ててぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
「ち、違います!か、彼女では…」
(彼女になりたいけれども!)
「えっと…椿くんとは、友人、かな…最近少し話すようになって…」
美音の様子を窺いながらおずおずと話す愛華。しかし美音には気分を害した様子はまるでなく、興味津々といった爛々とした瞳で愛華を見ていた。