私の好きな人には、好きな人がいます
「愛華さんの知り合い?」
「あ、うん。えっと、ピアノ教室で小さい頃から一緒で、お、幼なじみみたいなものかな」
「幼なじみか…」
椿は二人が見えなくなるまでじーっと見つめていた。何故顔を合わせたくないのかについては特に突っ込んでくることはなかった。
急に愛華を振り返った椿は笑顔でこう口にする。
「あ、そうだ。愛華さん。この後時間ある?」
「え?あ、うん」
時間はまだまだ余裕がある。椿の質問の意図が分からないまま、愛華は頷く。
「そこのカフェのドリンクチケット貰ってさ、良かったら一緒に飲んでいく?」
嬉しすぎるお誘いに、愛華は目を輝かせる。
(是非とも一緒に行きたい!けれど、私こんな格好だし…。椿くんはこんな格好の私が隣で、恥ずかしくないかな…)
行きたい、でも恥ずかしい。
愛華がしばらく葛藤していると、「ドーナツのクーポンもあるよ!」と椿が嬉しそうに笑う顔が可愛かったので、愛華は服のことなど忘れて、好きな人とのラッキーな時間に身を委ねることにした。
「ん!美味しいっ」
「ここの季節のドリンクうまいよなぁ、ドーナツも実は専門店より好きかも」
椿はドリンクを飲みながら、ドーナツを頬張る。その姿がハムスターみたいで可愛らしかった。
(椿くん、甘い物好きなんだ)
男子は甘い物よりジャンク系が好き、という愛華の偏見はその日打ち消された。他の男子のことなどどうでもいいが、椿は甘い物が好き、それが愛華にとっては全てである。