私の好きな人には、好きな人がいます
「そういえばさっきの、」
「うん?」
口の中の物を飲み込んだ椿は、そう切り出す。
「さっきの二人組、愛華さんの幼なじみだって言ってたけど、男子の方、愛華さんの好きな人だったりする?」
「違います!!」
愛華は食い気味に即答した。好きな人に勘違いされては大変困るので、ここはきっぱりと否定する。
愛華の剣幕に少し慄いた様な椿に、愛華は柔らかく付け足す。
「ら、ライバル、とかの方が近いかな?切磋琢磨する良き友人というか…?」
「なるほど…」
椿はふむ、と何か納得して、また愛華へと質問を投げる。
「愛華さんはさ、例えばなんだけど、幼なじみのこと、好きになることってあると思う?」
「え……?」
椿の質問の意図は全く分からないが、愛華は彼の質問を真剣に考えてみることにする。
(私で言うところの、水原くんよね。私が水原くんを恋愛対象として見るか、ってこと?)
「うーん…」
愛華は顎に手を当てて考える。全く考えたことのない話である。そもそも水原は愛華のことなど微塵もそんな風に見ていないと思うが、そんな回答では椿につまらないと思われてしまうだろう。
愛華は思考を巡らせつつも、ゆっくりと口を開く。
「最初は意識していなくても、何かきっかけがあれば、もしかしたら意識するかも……?」
愛華にはそんな予定は全くないが、一般的に、もしかしたら、という想像である。
「ずっと幼なじみだと思ってたけど、告白されて意識し出した…、みたいな?」
愛華の言葉を真剣に聞いていた椿は深妙に頷いた。
「女の子ってそういうもん?」
「そういうもんだと思います」
多分…と心の中で思いつつ、当初の疑問であった、椿は何故そのような質問をしてきたのか、が気になって仕方がない。愛華は思い切って質問してみる。
「なんでそんな質問を?」
「あーいや、友人がさ、告白するか悩んでるみたいだったから」
「告白…!」
椿は友人が多い。恋の相談にも乗っているのだろうか。
(さすが椿くん…!聞き上手な感じするもんなぁ)
目の前で優しく笑う椿の顔を時折見ながら、愛華はドーナツへと手を伸ばした。
(告白…かぁ…。私もいつか、椿くんに気持ちを伝えられる日が来るのかな…)
それからも椿と他愛ない話をして、甘くて幸せな時間を愛華は過ごしたのだった。