私の好きな人には、好きな人がいます

6話 不可解な出来事


 暗雲が立ち込めたのは、それからまた数日が経った日のことだった。


 ここ数日少し天気が崩れ気味で、ぐずついた空模様が続いていた。


「え…なんで……?」


 その日愛華はピアノのレッスンに来ていた。自分のロッカーを開けると、先日置きっぱなしにして帰った楽譜や、コンクールに関してのプリントがくしゃくしゃになっていた。


 楽譜は基本的にタブレットを使っているので、紙の楽譜は最近使っていなかった。しかしそれにしてもこれは気分のいいものではない。


(誰かが故意的にやった?それとも何かの要因で楽譜がロッカーから飛び出して、誰かに踏ん付けられちゃったとか?)


 学校のロッカーと違って、レッスン教室のロッカーには鍵が付いていなかった。基本的に貴重品は置かないようにしているが、みな楽譜やノート類を自分のロッカーに置いている。


 愛華はくしゃくしゃになった楽譜を眺める。


(踏ん付けただけでこんなにどのページもくしゃくしゃになるかな…)


 楽譜は手でくしゃっとしたかのような皺の刻み方で、考えたくはないが誰かが故意的にやったのではないかと思ってしまう。


(でも誰が?)


 このピアノ教室はこぢんまりとしていて人数は少ない。しかし先生の腕は確かで、知る人ぞ知る腕前の元ピアニストの先生が教えている。生徒達もそれなりに実力のある者たちだと愛華は思っていた。なのでこのような幼稚な嫌がらせじみたことをするとは考えづらい。そもそも愛華には恨みを買うような謂れはなかった。


「愛華、時間だぞ」


 後ろから水原に呼ばれて、愛華は慌ててロッカーを閉じた。


「あ、うん!今行く」


 発表会までもう日がない。今は練習に集中しなくては。


 ひとまずこの件は保留にして、愛華はピアノに集中することにした。


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