私の好きな人には、好きな人がいます
愛華と水原がやってきたのは、駅前のファミレスだった。
愛華はメニューを眺める水原を、きょとんと見つめてしまう。
「え?なんでファミレス?」
愛華の率直な質問に、水原はメニューから顔を上げることなく返答する。
「お腹空いてるだろ。俺は空いた」
今日のレッスンは予定の時間より大幅に伸び、いつもより遅くなってしまった。確かにお腹は空いている。しかし。
「だからってなんで私とファミレス?」
「今日の演奏の駄目出しをこれでもかとするために、まずは腹ごしらえが必要だからだ」
「ひっっ…」
(やっぱり駄目出しじゃん…!)
およよ…と泣いている愛華を無視し、水原は「食べるもの決まったか?」と聞きながら呼び鈴を鳴らした。「え!まだ決まってない!」と焦ってメニューを開く愛華を、水原は口元に笑みを浮かべながら見ていた。