私の好きな人には、好きな人がいます
D組の教室はA組と違って大変賑やかだった。本来昼休みというものはこうあるべきなのかもしれない。
A組は大人しい生徒が多いのか、昼休みもしっとりしておりみな食べ終わると各々楽器の昼連に行ったりするので、あまり賑やかではなかった。
椿の後ろに付いて愛華がD組に足を踏み入れると、男子生徒の茶々が入る。
「お!椿が女の子連れて来たぞー!」
「何組の子!?」
「おい椿、奥さんに怒られるぞー!」
「うるせえ!奥さんじゃないっつの!」
賑やかなクラスメイトに笑いながら言葉を返す椿。
「奥さん…?」
愛華の疑問に満ちた呟きに、「あー、幼なじみのこと」と椿は少し困ったように説明してくれる。
「椿こっち!」と女の子の声がして、愛華もそちらに顔を向ける。そこにいたのは、先日廊下で会った、美音と藤宮だった。
「あ!愛華ちゃん!」
「美音ちゃん!」
愛華と美音はパタパタとお互いに駆け寄る。
「ようこそD組へ!そっか!椿と仲良しさんだったよね!一緒に食べよ食べよ」
美音はその辺の机を持ってきて、自分の机にくっつけた。愛華はその席へと座らせてもらう。
「購買でたまたま会ったから連れてきたんだけど。あれ?美音と愛華さんって知り合い?」
「この前友達になったんだよー、ね?」
美音はそう椿に話しながら愛華へと笑顔を向ける。
「う、うん!」
早速友達だと思ってくれている美音に、愛華は嬉しくなる。
(美音ちゃんって、本当に明るくて優しくて椿くんみたい。完璧な幼なじみすぎない?)
しかし多分、美音は藤宮が好きだ。もし美音が椿を好きで、ライバルになるようだったら愛華に勝ち目はなかっただろう。
「つーか、なんで藤宮までいんだよ」
椿からは聞いたこともないような不快そうな声色で、今日もなんだかだるそうな藤宮を睨みつける。
その藤宮は椿の態度など気にする様子もない。
「佐藤に誘われたから」
「美音、藤宮なんか誘うな」
「席も近いんだしいいじゃん!さ!食べよ!」
椿は少し不満そうにしていたが、渋々近くの席に腰を下ろす。
(椿くんがこんな風に話すところ初めてだ。男の子の友達にはこんな風に話すんだ。また新しい一面が見れちゃった!)
愛華と話す時には決して見せないだろう椿の表情に、愛華は微笑ましく思いながらチョコチップメロンパンを齧った。