私の好きな人には、好きな人がいます
9話 さよなら初恋
気持ちを切り替えた愛華は、次のピアノコンクールに向けて練習を始める。
次のコンクールは全国から強者が集まるなかなか大きなコンクールだった。地区大会、ブロック大会はすでに通っており、残すは全国大会のみである。
同じピアノ教室で全国大会に進んだのは、愛華と水原、そして麗良の三人だった。
(麗良ちゃん、最近どうしてるかな…)
麗良とはあの発表会以来話していない。もともとレッスンの曜日も違うので、普段滅多に会うことはないのだ。
あの日いたずらされていたのは、どうやら愛華だけであるようだった。誰もそんなことがあったと口にしていなかったので、愛華も誰かに言うようなことはしなかった。
もしかしたら麗良が…と何度も考えたが、なんの証拠もないのに疑うのは良くない。仮に麗良が犯人だとして、愛華には麗良に恨まれるようなことをした覚えがなかった。何か気付かぬうちに嫌なことをしてしまったのだろうか。
「ふう、少し休憩しよっと」
愛華はお茶を口に含み喉を潤すと、音楽室のベランダに出た。
グラウンドでは今日も運動部が一生懸命に競技に取り組んでいる。どの部活動も大会が近いのかもしれない。
(椿くんはー、っと)
走り回る生徒達の中、陸上部の集団を見付け、その中に椿の姿がないか目を凝らす。
(あれ?椿くんいない?)
椿は何故か良く目立つ。愛華の椿センサーが優秀ということもあるが、明るくてよく笑う椿は誰の目にも止まりやすいと思う。しかし今日はその姿が見受けられない。
(委員会に行ってるとか?まだ教室にいるのかな?)
六限目の授業が終わってもう一時間近く経つ。今日は何かしらの用事で部活を休んでいることも考えられるが、今までそんなことは一度もなかった。
何だか落ち着かない気持ちになってしまった愛華は、購買部で甘いお菓子でも買ってこようと、音楽室を後にした。