私の好きな人には、好きな人がいます
その日から水原は、事あるごとに愛華に声を掛けてくるようになった。
学校での移動教室やお昼休み、放課後の練習もたまに音楽室に来て、そのまま一緒にピアノ教室に向かう。
今までもそのようなことは数回あったが、ここのところ頻度が増えたように思う。
愛華は次第に、水原が自分のことを好きなのだと、はっきり確信するようになった。
「帰るぞ、愛華」
「あ、うん…」
レッスン終わりも水原は愛華を待っていて、駅まで一緒に帰る。
水原が「ん」と言って愛華に手を差し出すので、愛華は首を傾げながらも指先をちょんと置く。すると彼はそれをぎゅっと握って、そのまま愛華を引っ張っていった。
(え!手を繋ぐってことだったの!?)
水原は愛華の手を握って歩き出す。それに慌てて並ぶように、愛華も彼に並んだ。
何だか照れくさかった。
(もし彼氏が出来たら、こんな感じなのかなぁ…)