私の好きな人には、好きな人がいます
(ああ、やっぱり…全部、麗良ちゃんだったんだ……)
愛華の心の中にはザワザワとした絶望が渦巻いていた。
麗良とも小さい頃から一緒にピアノを習ってきた。愛華は麗良を好いていたし、友人だと思っていた。しかし麗良はとっくに違ったのだ。愛華に嫌がらせをするくらいに嫌っていて、愛華のことを邪魔に思っていた。いつからだろう。いつから麗良は愛華のことが嫌いだったのだろうか。
愛華の目からは自然と涙が伝っていた。
信じていた友人から裏切られたのだ、悲しくないわけがない。
麗良もきっと、水原のことが好きである故のことなのだろう。愛華という友人を蹴落としてでも、水原と両想いになりたいのだ。いや、もしかしたら友人と思っていたのは愛華だけだったのかもしれない。最初から、ずっと。
そう思うと余計に胸が苦しくなった。悲しい、ただその単語だけが頭をぐるぐるする。
小さい頃に一緒にピアノを弾いた麗良の姿、時たま二人で遊びに行くこともあった。いつも笑顔であった麗良は、心の奥底では愛華を憎んでいたのだろうか。
もう駅が近い。こんな涙でぐしゃぐしゃの顔なんて、人様に見せるわけにはいかない。
愛華は少し落ち着こうと、駅の手前にある小さな公園に入った。
辺りはすでに薄暗くなってきていて、いつもは元気よく遊んでいる子供たちの姿がもうそこにはなかった。
愛華は暮れゆく夕陽を眺めながら、静かにベンチに腰を下ろした。
鞄からタオルハンカチを取り出して、目元を優しく抑える。視界がさらに真っ暗になった。
(なんでこんなことになっちゃったんだろう…)
失恋して、ピアノのコンクールはボロボロで、告白されたと思ったら友人を失って。
ここ最近の愛華を取り巻く環境は、とてもじゃないが目まぐるしい。
(なんだかもう、疲れてきちゃった…)
何もかも投げ出したい気持ちになる。恋も、友情も、ピアノも。何もかも忘れて一人になりたい。
「どうして何もうまくいかないのかな……」
愛華はまた静かに涙を流す。
(何がいけなかったのかな。私なりに頑張ってきたんだけどな。勉強もピアノも、友達だって大切にしてきたつもりだったのに…)
何もうまくいかなかった。結局何も、大事にできなかったのだろうか。
愛華は一人絶望の海に溺れていて、声を掛けられるまで誰かが近寄ってくる気配に気が付けなかった。