私の好きな人には、好きな人がいます
愛華が勉強に必要なテキストを詰め込んだ鞄を持ってD組の教室に足を踏み入れると、思ったよりも多くの生徒が机を合わせて勉強していた。
「あ、愛華ちゃん!」
美音が手招きしてくれた席周辺には、二人の女子生徒がいた。
愛華は椿が近くにいないことにほっと胸を撫でおろす。
「いらっしゃい」と歓迎してくれるD組の女子達に恐縮そうに頭を下げた愛華は、美音が用意してくれていた席へと腰を下ろした。
「愛華ちゃんのクラスって、数学何先生?」
「あ、高丘先生」
「あ、じゃあ一緒だ!あの先生教え方にちょっと癖あるよね…」
数学が苦手なのか、しょんぼりと肩を落とす美音が可愛くて、愛華はくすりと笑った。
「そうだね、良かったら少し教えようか?」
「え!いいの!?」
愛華の提案に美音だけでなく、一緒に勉強していた女子達までもが食いつく。
「私も教えてもらいたい!」
「あたしのも見て~」
「わ、私で良ければ…!」
愛華の言葉に女子達がわーっと手を叩く。
「これ賄賂です」
「あ、あんたずるっ。あたしからも賄賂です」
なんて言いながら、彼女達は愛華の机の上にぽんぽんとお菓子を置いていく。
愛華は嬉しくなって、つい声を出して笑ってしまった。
「ありがとう、順番に見るからね」
愛華にとって、こんなにも優しい時間は久しぶりだった。
ここのところ溜まっていた心の疲れが、彼女達によって解けていくようだった。