私の好きな人には、好きな人がいます
「愛華ちゃん数学得意なんだ!すごい!」
美音だけでなく、他の女子生徒からも称賛され、愛華は少し鼻高々だった。
「えへへ、数学好きなんだ」
「ひえーそんな風に言ってみたいよ~」
時に雑談しつつ笑い合いながら、美音たちと一緒の勉強会は滞りなく進んでいた。
「あ、あたし喉乾いたからジュース買ってくるわ」
「あ、私もー!」
そう言って二人が席を立つ。
「美音と愛華の分も買ってくるよ。何がいい?」
「あ、じゃ、じゃあ緑茶を」
「私オレンジジュース!」
「ん、行ってくる」
二人は連れ立って一階の自動販売機へ向かった。
「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくる!」と美音までも席を立ってしまい、愛華は他クラスで一人になってしまった。
他の生徒も勉強に励んでいたり、雑談に興じていたりと思い思いに過ごしてはいるが、やはり自分のクラスではないので少し居心地悪く感じてしまう。
(美音ちゃん達、早く帰って来ないかな)
そう思いながら教科書に目を落としていると、隣で椅子を引く音が聞こえた。
「あ、美音ちゃ、」
顔を上げて隣を見ると、椅子を引いたのは藤宮だった。
藤宮とも、愛華が失恋した時に泣いた顔を見られて以来である。
(私、男子に泣き顔見られてばかりでは…)
気まずく思いながら藤宮の様子を窺っていると、藤宮は机の中からテキストを一冊取り出した。
(あれ、ここ美音ちゃんの席じゃ…?)
疑問に思っていることが顔に出ていたのか、藤宮はまるで心を読んだかのように返答する。
「ここ、俺の席だけど」
「あ、そう、なんだ」
「どうせ佐藤辺りが勝手に座ってたんだろ」
「う、うん」
浅くため息をついた藤宮は、さっさと廊下に出て行ってしまった。
(相変わらず何だか不思議な人だ。冷たそうに見えるけど、この前は気を遣ってくれたし…)
美音が想いを寄せている?かもしれない人だ。変な人ではないと思う。よくは分からないけれど。