私の好きな人には、好きな人がいます
「えっと…愛華さん」
「ひゃいっ」
考え事をしていた愛華は、急に真横から声を掛けられて飛び上がった。
そこに立っていたのは、少し困ったように眉尻を下げた椿だった。
「あ、」
愛華は気まずさから視線を逸らしてしまう。
この前あんなことを言ったのだ。椿にとっては訳が分からないことだらけだっただろうに、それを咎めることすらしない。
しかし椿も少し気まずいのか、いつもの声より幾分か元気がないように感じる。
「ごめん、そこ俺の席なんだ」
そう言われ、愛華は慌てて立ち上がる。
「ごごごごめん!!他の机借りる!」
期せずして椿の席を使っていた愛華は、恥ずかしくもあり嬉しくもあり申し訳なさもありでどうしたものかと辺りの空いた机を探す。
ふと愛華は、たまたま、ではなく、美音がそうしたのではないかと思った。
愛華が来ると分かって、椿の机を用意したのかもしれない。
「あ、いいよいいよ。俺、ノート取りに来ただけだから。今図書室で勉強しててさ」
「あ、うん、そっか…」
「ちょっとごめん」
そう言って愛華に触れそうな近さで、椿は屈んでノートを探し始めた。
(うっ!近い…!!そうだよね、机の中探すんだもん。もっと下がっておけばよかった…)
愛華は椿に気が付かれないよう、音を立てずに椅子を後ろに下げた。
「あ、あった」と言ってノートを取り出してからも、何だかやたらと距離が近いような気がして、愛華の心臓はうるさく鳴っていた。
同時に、愛華は自分の気持ちを再確認する。
(ああ、やっぱり。私は椿くんが好きなんだ)
こんな風にドキドキするのも、緊張するのも、嬉しいのも、やはり椿が相手だからなのだ。
(他の男の子には、感じたことないもん…)
愛華はぱらぱらとノートを確認する椿に思い切って声を掛けた。
「あの、椿くん」
「ん?」
「この前は、酷い事言ってごめんなさい」
愛華が頭を下げると、椿は驚いたように目を丸くする。