私の好きな人には、好きな人がいます
「いつも気に掛けてくれて嬉しかったのに、あの時少し悲しいことがあって、椿くんの優しさを無下にしてしまって…本当にごめんなさい」
愛華の謝罪に、椿は慌てたようにわたわたとしている。
「あ、愛華さん!顔上げて!俺、全然怒ってないし、気にしてないから」
「本当?」
「ほんと!愛華さんが平気なら、俺はそれでいいし」
「うん…平気だよ」
椿には本当に気に障った様子はなかった。
「じゃあ、俺そろそろ戻るから」
「うん、またね」
「また」
そう挨拶を交わして別れる。
(ちゃんと、話せた…)
愛華は安堵し、また椿の席へと腰を下ろす。
(ここ、椿くんの席だったんだ…)
いけないと思いつつも、ちょっとだけ机の中を覗いてみる。
椿の机の中は、お世辞にも綺麗とは言えず、プリントが少しくしゃっとなっていたり、奥で丸まっているのが見えた。
(すごい、なんだか男の子って感じ)
愛華は一人くすくすと笑いながら、椿の机の中にチョコのお菓子をこっそり入れてみた。
それは四角く小さな、抹茶味のチョコレートだった。
(椿くんも抹茶味、好きだったらいいのにな)
愛華はそんなことを思いながら、一つの結論を導き出そうとしていた。
愛華は机へと顔を伏せる。椿がいつも使っている机。彼が黒板に視線を向け、ノートにペンを走らせている姿を想像する。
一つの結論。それは、失恋した時からずっと考えていたことだった。