離婚前提婚～冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます～

「でも、そんな理由で目指したからか、実習中は毎日くじけそうでしたよ。どれだけ泣いたことか」
「ほう」

チラと先生の横顔を見たけど、特に大きな反応はない。

私は勇気を出し、彼に問うことにした。

「……先生、覚えていませんか？　私、学生のとき先生に会っているんです」

驚くと思ったのに、笠原先生は素直にうなずいた。

「覚えてるよ。ピンクの実習服でわんわん泣いてた、半田さんの担当の学生だろ？」
「のわ!?」

たしかに実習服はピンクで、担当した患者さんは半田さんだった。

まさか、覚えていたとは。

驚かせるつもりが、逆に驚かされた。

「覚えているなら、言ってくれればよかったのに！」
「覚えているというか、さっき思い出したんだよ。そういえばこんな顔してたなって」

たった一瞬話しただけなのに、私の顔を頭の片隅で覚えていたのか。

「本当にうちの病院に来てくれていたんだな」
「ええ、まあ」