離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「ねえ、おごるからご飯行こう。連絡先交換しよ」

人の迷惑がっている雰囲気を察しないタイプの人か、察していても察していないフリをするタイプの人か、どっちからしい。

つい数日前まで虫垂炎でヒイヒイ泣いて痛がっていたのに、すっかり元気になったものだ。

「そういうのは規則でできないんです」
「えー、黙ってればわからないでしょ」

キッパリ断っているのに、井上さんはしつこい。

あのねえ、私じゃなくて、心配や迷惑をかけたご家族においしいものおごってあげなさいよ。

とは言えず、「いやいやダメなんですよー」と言って流す。

「さ、血圧測りましょう」

強制的に話題を切り替える。

さっさとやることやって、ここから出たい。

いくら患者さんでも、こういうタイプの人には優しくする気は起きない。

さらっと対応しないと、またなめられる。

「はーい。七海ちゃんが来てドキドキしたから、血圧上がってるかもなあ」
「いやいや……」

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