離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「他の人に代わってもらいます」

もう許さん。病気を通り越して犯罪だ。

私は血圧計をしまい、カートを押して病室を出ていこうとする。

千葉くんに代わってもらお。こういう人に限って、男の人が来るとなにも言えずにおとなしくなるんだから。

「勘違いしちゃ困るよ。当たっただけなんだから」
「そうですか」

相手にしない。こういう人に抗議しても無駄だ。

「今度は気をつけるからさ、ほら」
「いいえ、けっこうです」
「本当に事故だから。もう少しここにいてよ」

ベッドで上体だけ起き上がった井上さんに、腕をつかまれた。

次はどこを触られるかわからない。

悪寒が背中を走り抜けた、その時。

「なにをしているんです」

突如病室の戸が開いた。

「笠原先生」

そこには笠原先生が立っていた。

彼の後ろに、心配そうに見守る後輩と師長の姿がちらりと見える。

「悲鳴が聞こえたのですが。この手はなんですか」

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