離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
自分のやったことをなかったことにし、穏便に済まそうとしているのがわかる。

笠原先生の広い背中から、井上さんに対する怒気が迸っているのが見えるような気がした。

「できません」
「え……」
「医療従事者は患者さんの治療や看護はできます。心のケアもできればいいと思います。だけど、個人のわがままのために医療従事者の心を殺すことは容認できない」
「大げさだなあ」

自分が悪いことをしたという自覚が全然ないみたい。

心を殺すっていうのは怖い言葉だけど、言い得て妙だ。

患者さんを看護する気持ちを裏切られ、逆手に取られ、文句を言えばクレームを入れられる。

そうしたことを重ねていくうちに私たち看護師の心が死んでいく。

おっさんたちからしたら大したことない悪ふざけかもしれないけど、こっちは眠れないくらい腹が立ってるし気持ち悪いんだっつうの。

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