離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「そう。じゃあ、また呼ぶわね」

師長に名前を呼ばれ、後輩は師長室に入っていった。

後輩は色白で華おごな、いかにもおとなしそうなタイプ。

ああいうなにも言い返せなさそうな子を選んでセクハラするなんて、絶対確信犯。有罪。

「災難だったな。いや、災難で済ませていい話じゃないが」

それまで黙っていた笠原先生が眉間にシワを寄せ、怒りに燃えている私を見下ろす。

彼が私を心配してくれているように見えたからか、自然と怒りがおさまった。少しだけだけど。

「どこをどう触られた。怪我はないか?」
「あ、はい。右胸をこう、わしっとつかまれましたけど怪我は」
「わしっとだと」

自分で井上さんの手つきを再現してみると、笠原先生が鬼のような顔をした。

「今すぐ出入り禁止にしてやる」

きっと井上さんの病室のドアをにらみつける笠原先生。

「いいえ、先生が厳重注意してくれたんで。あの人、もうすぐ退院ですし」
「だが」
「次回からは入院しても、男性看護師しかつけないようにしましょう。他の病棟や外来に行ってもわかるように、しっかり記録を残しておきます」

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