離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「槇さん以外の人が呼んでも、無視だったもんね」
「まさかそんな」
「ほんとほんと。槇さん気に入られてるのよ」

うーん。気に入っているなら、もう少しにこやかに話してくれてもよさそうだけど。

もつ鍋屋の夜以来、ゆっくり話すタイミングもなく、あの日のことは夢だったのかも、なんて思っていたある日、私は初めて特別室の受け持ちになった。

うちの病院の特別室とは、一泊三万円の病室のことを言う。

食事も一般病棟とは違い、テレビもタダで見放題、Wi-Fi使い放題。

病室の中にお風呂も冷蔵庫もついていて、絨毯が敷き詰められた床はまるでホテルのよう。

……ただ、血液とか点滴とかが飛んだら掃除しにくそうではある。

値段が高いので、このご時世、いつも特別室は空いている。

そこに入るのはやはりお金持ち。しかし特別室ではなく普通の個室もあるので、よほど個室が満室でもない限り、特別室に入る人は少ない。

「昨日槇さん休みだっけ。その人、昨日入院したのよ」

高校生のお子さんがいるという中年の看護師さんが、受け持ち表を眺める私に教えてくれる。

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