離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「ああ、そんなにかしこまった店じゃないから大丈夫。俺が急に誘ったんだし」

笠原先生はくすりと笑った。

「そうか、槇も人並みにそういうこと気にするのか。かわいいところあるじゃないか」
「はっ?」
「それに、そういう元気がありそうな恰好は嫌いじゃない。槇によく似合ってる」

滅多に見せない笑顔でそんなことを言われて、私の心はふわりと浮つく。

そっか、似合ってるか。意外とカジュアル好きか。

頬が緩みそうになるのを必死でこらえる。

「入ろう。ごちそうする」

先生は店のドアを開けてくれる。

彼の姿を見るなり、店員さんが私たちを奥の席に案内した。

どうやら先生は何度か来たことがあるらしい。

彼はきょろきょろすることも、メニューをしげしげと見つめることなく、落ち着いて私の方を見ていた。

「写真、ないんですね」

メニュー表に写真がない。ファミレスや大衆居酒屋なら大抵載っているのに。

一生懸命文字を目で追う私を急かすことなく、先生は静かに窓の外を見ている。

洒落た外観と対称モダン的な内観に惑わされたけど、メニューは奇抜でもなんでもない洋食の名前が並んでいた。

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