離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
「俺は牛ロースステーキにするけど」

先生が選んだものは、メニューの中で一番高いものだった。

「私、カニクリームコロッケで」
「遠慮するなよ」

カニクリームコロッケは、安い方から二番目のメニュー。

別に遠慮したわけじゃなくて、なんとなくほわっとした優しい感じで選んだ。

「いえ、それが食べたいんです」
「そうか。じゃあそうしよう」

選んだものとは別に彼がおすすめの前菜やパン、スープにサラダに飲み物まで注文してくれる。

店員さんがいなくなり、私はやっと一息ついた。

水を飲みつつ、笠原先生の顔をちらっと見る。

まさか、ふたりきりで食事をすることになるなんて、思ってもみなかった。

ドクターの世界ではお気に入りの看護師を連れて食事をするのは珍しいことではないみたいだけど、今まで誰にも連れて行ってもらったことはない。

こんなところを病棟の誰かに見られたらと思うと、ハラハラする。

「ところで、昼間のことなんだが。特別室の患者について、先輩看護師たちになにを聞いた?」

どきりと心臓が跳ねる。

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