魔法少女メルティーハート、初恋始めます?!

魔法少女メルティーハート、初恋始めます?!#1

◯駅前・大通り(昼)

休日の大通りに突然現れたモンスター。
足がもつれて転んだ子供に向かって、魔の手が伸びる。

める「コラー!その子から離れなさい!」

モンスターに向かって、ビームが飛んでくる。
ビームに驚いて、少年から離れるモンスター。
白とピンク色の魔法少女のコスチュームを身にまとった愛瀬(まなせ)めるが、モンスターと少年の前に仁王立ちで立ち憚る。

める「私が来たからには、もう大丈夫!」

める、腰に手を当て、モンスターに向かって指を差すポーズをとる。

める「魔法少女、メルティーハート!あんたの心、絶対溶かしてみせるから!」

T『魔法少女メルティーハート、初恋始めます?!』

◯愛瀬家・リビング(夜)

全体的に整理整頓が行き届いているが、ソファの横には投げ捨てられたように、めるの鞄が置かれている。
部屋の真ん中に置かれたソファにうつ伏せで寝転がり、スマホを見ているめる。
スマホの画面には、めるのハマっているゲームの推し、冷血のクロードが映っている。

クロード「そうやって、俺だけを見ていればいい」

長い銀髪を耳にかけながら、画面に迫ってくるクロード。

クロード「貴様は俺のものだ」
める「はあ〜♡クロード様最高!推ししか勝たん!」

める、うっとりした表情で、ソファに顔を埋める。
足をバタバタとさせて、落ち着きがない。
悶えているめるを、めるの父・望(のぞむ)が遠くから見ている。

める(私、愛瀬める。魔法少女です……が、普段は乙女向けゲームを愛する、ただのオタクです!)

めるの元に望が近寄り、心配そうに声をかける。

望「める、そろそろリアルの男の子にも、興味を向けたらどうだ?」

める、望の顔を見て怪訝な顔をして、再びスマホの画面に目線を戻す。

める「ええ〜?嫌だよ。なんで推しがいるのに、わざわざ他の男を見なきゃいけないわけ?」
望「そりゃあ、リアルで恋した方が強くなるって噂があるし……」

める、ムッとした顔をする。

める(実はうちの家系は、代々魔法少女(少年)の家系なのですが……)
(魔法少女(少年)には、誰かを愛すれば愛するほど強くなるという特性があるせいで、必ず恋をしなければならないというしきたりがあって)
(でも私の場合、二次元にしか興味がないので……)

める、スマホを握りしめながら、望を睨みつける。

める「今、私は推しに恋するのに忙しいの!」

画面の中のクロードが、意地悪そうな微笑みを浮かべる。
それを再びうっとりした表情で眺めるめる。
望、ため息をつく。

望「……リアルならサ終しないぞ」
める「ア"?」

望に対してメンチを切るめる。
娘の威圧感にめげそうになる望。

める「サ終したって推しは永久不滅なの。それにリアルの人間は突然解釈違い起こすから嫌」

やりとりを聞いていた、母・珠鈴(じゅり)が入ってくる。
胸の辺りまである髪を後ろで一つに結え、エプロンをつけている。

珠鈴「まあまあ。お父さんは心配なのよ」

める、珠鈴の顔をチラッと見てため息。

める「違うでしょ。私に人間の婚約者が出来なくて、跡継ぎがいなくなったら困るからでしょ?」

望、ぎくりと肩を震わせ、目を逸らす。

望「そ、そうとも言う……」
める「……」

気まずい空気が流れる。

◯学校・教室(授業中)

める、頬杖をついて、つまらなそうに窓の外を眺めている。
ノートの端に小さな落書きがある。

◯学校・中庭(昼休み)

一人で外のベンチで黙々と弁当を食べるめる。

める「……へへ」

時々スマホを見てニヤける。

◯学校・教室(放課後)

あちこちで談笑しているクラスメイト達。
大あくびをするめる。
スマホの画面には、珠鈴「帰りに卵買ってきて」と表示されている。
荷物を持って立ち上がり、眠そうな顔で教室を出て行く。それを遠くから見ている男子・涼川透。

透「……」

◯愛瀬家・玄関(夕方)

める「ただいまあ」

靴を脱ごうとするめる。
手には買い物袋を提げている。
見慣れないローファーが視界に入り、怪訝な表情を浮かべる。
リビングに繋がる廊下の奥から、バタバタと望が出てくる。

める「お客さん来てんの?」

望、めるが置いた買い物袋を持ち上げながら、リビングに来るように促す。

望「今すぐリビングに来てくれ。大事な話がある」

◯愛瀬家・廊下(同)

先にリビングに向かった望を追って、リビングに向かうめる。
カバンを片手で持ち、ちんたら歩いている。

める(大事な話って何?)

める、リビングの扉を開ける。

める「?!」

ソファに座っている、見慣れないイケメンと目が合う。
微笑むイケメン(透)。
める、釣られて笑顔を浮かべるも、顔が引きつっている。
珠鈴、めるを手招きする。

珠鈴「おかえり。とりあえずこっちに来てくれる?」

◯愛瀬家・ダイニング(同)

珠鈴、透、机を挟んで望、めるがダイニングチェアにそれぞれ座っている。
珠鈴、微笑みを浮かべながら、透のことを紹介する。

珠鈴「こちら、めるの見合い相手として選ばれた、涼川透くん」
める「見合い相手え?!」

明らかに動揺した様子で、透の方へ身を乗り出すめる。

める「な、なに突然。そんなの聞いてないんだけど?!」
珠鈴「ええ?だって、あなたがリアルの人間じゃ恋ができないっていうから。私たちで、めるでも恋が出来そうな、イケメン婚約者候補を用意したってわけ」

ニコッと笑いかける透。
める、あまりの笑顔の眩しさに目を細める。

める(うっ。めちゃくちゃ顔が良いな……)

目を細めながらも、透の顔をマジマジと見るめる。

める(しかもよく見ると、顔がちょっと推しに似てる……)

める、脳内で推しのクロードと透の顔を比べる。
透の方が爽やかな雰囲気ではあるものの、キリッとした顔立ちが少し似ている。
透、ニコニコしている。
3人のやりとりをハラハラしながらも見守っていた望が、作り笑いをしながら手を叩く。

望「ま、まあそういうわけだから!透くんには、仲を深めるためにも、今日からうちに居候してもらうから仲良くな!」
める「はあ?!初日から同棲?!」

ガタンと音を立てながら勢いよく立ち上がっためるを宥めるように、ヒソヒソと耳元で話す望。

望「決めたのは珠鈴さんなんだ。……合わないと思ったら、他の手を考えるからさ。……お試しだと思って、とりあえず頼むよ」

望、申し訳なさそうな顔で、主人公に向かって手を合わせる。
める、諦めたようにため息をつく。
めると透、「気を取り直して、挨拶からいきましょうか」と珠鈴に促され、挨拶を交わす。

める「どーも初めまして。愛瀬めるです。(手を差し出しながら)聞いてるとは思うけど、魔法少女やってます」
透「(差し出された手を取って)涼川透です。これからよろしく」

握手する2人。
目を逸らしながら赤面する透。
それをめるが怪訝な顔で見ている。

透「(照れながら)あ、握手できて嬉しいなあ。実は俺、魔法少女メルティーハートのガチファンで……」

一瞬固まるめる。
徐々に頬が赤く染まっていく。

める「は、はあ〜?!」

める(突如始まった、リアルのイケメンとの同棲生活。しかもその男が、私のファンだなんて……)
(これからいったいどうなっちゃうの〜?!)
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