冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


「部屋余ってないから、寝室を好きに使ってくれて良いから」


 ここ、と、教えてもらった寝室の扉を開く。大人二人が眠れそうな大きめなベッドの横に小さめのサイドテーブルが置いてあった。


 窓も大きく、日当たりが良さそうな寝室だ。こんな素敵なところ、居候の身なのだから使えない。


 寝室を出ると橘さんが焼肉用のプレートを準備してくれていた。そんな橘さんに声をかける。


「橘さん、私、リビングでいいです! ソファーありますし、ここで寝ます!」

「俺がここで寝る」

「居候の身で、お部屋に寝せていただくわけにはいきません! 私、玄関でも大丈夫なので!」

「アホか。ったく。おまえ、ネカフェなんて寝にくい場所で睡眠取れてなかったろ。目の下クマできてるし。貰い物の顔パックやるから、寝る前ケアしろよ」


 確かに、睡眠が十分取れていなかったし、疲労もすごい。ありがたく寝室で休ませていただくことにする。


「あと、プライベートと仕事分けたいタイプだから。家では『橘さん』じゃなくて『一希』って呼んで」

「え、はい……」

「俺も家では『詩織』って呼ぶし」

「……はい、分かりました」


 一希さん。一希さん、一希さん、一希さん。

 心の中で何度も一希さんを呪文のように唱え気持ちを落ち着かせる。


 「一希さん、私が野菜切ります」


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