冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 付かず離れずの関係が一週間ほど続いたある日、いつものように接客をしていると背後から「詩織」と、よく知る声で名前を呼ばれた。


 振り向かなくても誰か分かった。

 ……お母さんだ。

 私がどんな想いで家を出たか分かっていないようで、何事もないような顔で私を見る。


「……今仕事中なんだけど」

「そんなこと分かってるわよ。アンタ全然家に帰ってこないじゃない。家賃も光熱費も支払えないのよ」


 私が仕事中だと言っているのに、「ちょうだい」と手を差し出す母。

 私がどこで働いているか知っているため、家を出ても母から完全に逃げれるわけではなかった。


「ボーナスも入ったでしょ、それもさっさと渡しなさい」

「だから今仕事中だって。それに、今そんな大金ないよ」

「じゃあ今からすぐに下ろしてきてちょうだい。渡してくれるまで帰らないし、毎日くるからね」


 母の性格からして本当に帰らないし、仕事をしていない母は毎日来るだろう。そんな事になれば他のお客様や従業員にも迷惑が掛かってしまう。


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