冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて



 事務所に行き、パソコン作業をしている一希さんに話しかける。


「あの、橘さん……」

 一希さんはよほど忙しいのだろう、顔を向けずに声だけで「ん?」と返事をした。

「休憩を今から取らせてもらうことできますか?」

「……なんで? 皆きちんと決められた時間に休憩に入れるように回してるだろ」


 一希さんの言う通りだ。何も言い返せずに沈黙を貫いていると、一希さんはまた私に問いかけた。


「理由言えるか?」


 心配かけたくなくて、できることならお店を出たかったのにやはり理由は必須だった。


「……はい、今、母が来ていて」

「……お母さんが?」


 一希さんは作業している手を止め、私に身体を向けた。


「はい。母に先月の仕送りをしていなかったので、今から急ぎ引き下ろしてきたくて……三十分で良いです、お願いします」


< 30 / 66 >

この作品をシェア

pagetop