冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて
私がもし仮に結婚をしたら……
恐らく結婚しても母に対しての何らかが変わることはないだろう。
私に今できることは母親に渡す予定だったお金をさっさと支払って、一分一秒でも早く店内から追い返すことだ。
自分勝手なことを言っていることは分かっている。それでも、一希さんにほんの少しでも良いから分かってほしいと思ってしまった。
言葉を詰まらせていると、一希さんは顔色を窺うように私の顔を覗き込んだ。
「お母さん、ここに連れてきてくれる?」
「ここって、事務所ですか?」
「うん。話したいことあるから。相澤は仕事に戻って」
「で、でもお金渡さないと……」
「お金のことは気にしなくていい」
私のお母さんに話し合いだけでどうこうできるわけがない。
「分かりました。でも、橘さんが母にお金を支払うことはしないでください。そんなことをされたら私、申し訳なくてもうここでは働けません」