冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 お願いすると、一希さんは「分かってる」と頷いた。


 本当に分かってくれているんだろうか。
 一希さんとは仕事も含めると一日中と言っていいほど一緒にいる。だけど、未だに一希さんが何を考えているのか、私には分からない。

 母を事務所まで連れて行き橘さんに合わせると、母の顔色は霧が晴れたように明るくなった。その表情を見て、私はいらぬ嘘をついてしまったことを思い出した。


 余計なことを言いださないように口を開いたのもつかの間、

「アナタ、ここの会社の御曹司の橘一希さん!? この子と付き合っているっていうのは本当かしら!?」

 挨拶もなしにいきなり一希さんに失礼な質問をぶつける。

 私がついた嘘ではあるけれど、母の『この子と付き合っている』という事実確認は余計な一言だ。「はい、そうです」と言う人なんているわけない。


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