冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 目を輝かせる母から目を離し一希さんに視線を向けると、一希さんは私に視線を向けていた。まるで「どういうことだ」と言われているようで、心の中で「ごめんなさい」と何度も謝罪をした。


 ダメだ。これ以上迷惑はかけられない。
 母に呆れられても罵られても仕方がない。本当のことを言おう。


 「お母さん、違うの。あれは私が家を出たくて」と言いかけると、言葉を被せるように「そうです。初めまして。橘一希です」と、一希さんは私の母に頭を下げた。


 ……え?
 な、なんで……?

 母はますます目を輝かせて、頬に両手を置いて「イケメンねぇ」と、一希さんを色目づいた眼差しで見ていた。


 唖然とする私を置いて、一希さんは母に対して言葉を続けた。


「ずっとお会いしたかったんですが……僕がアメリカに渡ったりでバタバタしていまして、スミマセンでした。もちろん、詩織さんとは結婚を前提に付き合っていますのでご安心ください」

「うちの子なんかでいいのかしら!?」

「はい、もちろん。お母さんにたくさん仕送りをしていることも知っていますし、仕事も頑張ってくれているので。僕はそんな彼女の謙虚な部分や努力できるところに惹かれました」

「そうなのよねぇ。私、働いていなくてねぇ。今詩織に給料の半分と光熱費と家賃を支払ってもらっているの。それが滞ったら困るのよねぇ。もっと言ったらそれでも足りないんだけど、そこのところ、一希さんはどうお考えで?」


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