冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて
「あの、詩織さん」
レジで接客をしていた遅番の川本くんが首を傾げながら私の名前を呼び肩をツンと指で突いた。
「今事務所にいる方、お母さんですか?」
レジで接客をしていため、事務所内の話声が聞こえたのだろう。
「ああ、うん……ごめんね、騒々しくて」
「いえ、細かくは聞こえなかったですが、橘さんに凄く怒鳴ってましたけど」
「…………え」
「『生活が苦しいってなんで分からないのか』などと怒ってましたけど」
「……他は?」
絶対にお金のことで一希さんに相談を持ち掛けると分かっていたのに、母と一希さんを二人にするんじゃなかった。それでも、一希さんは、母にお金を援助することはしない決断をしてくれている。
事務所から聞こえてきた川本くんが知っている限りの内容を、私に伝えてくれた。
「結婚がなんたらとも怒鳴ってましたけど、結婚ってどういうことですか? もしかして……詩織さんがするんですか?」
結婚のことまでしっかり聞かれていたようで、首を縦に振ることも横に振ることもできなかった。
「どうだろう、まだ分からない」
「分からないって?」
「もしかしたら結婚できるかもしれないし、白紙になるかもしれない……」