冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて
だけど、あの母がその言葉で諦めてくれるんだろうか。
「……うちの母親働いていなくて、自分で得る収入がないんです」
「それは母親の甘えだろ。足が悪いわけでもないし、精神的に抱えてる何かがあるわけでもない。今までは詩織がいたから詩織に甘えてただけで、働けないわけじゃない。働こうとしなかっただけなんだから」
「た、確かにそうですけど……お母さんが働くとは思えなくて……」
「そこは心配したらキリないよ、詩織はお母さんとはもう会いたくないんだろ。だから家出したんだろ」
一希さんの問いに大きく頷く。すると、一希さんは私に一枚の紙を差し出してきた。
「こ、これって……」
「うん、婚姻届け。結婚しよう、詩織」
「…………っ」
理由はどうであれ、一希さんと結婚できるなんて嬉しくて泣いてしまいそうだった。
でも、ダメだ。私は一希さんと結婚することはできない。私の事情で一希さんの一生を奪うことは許されない。
一希さんは本当に大切にしたいと思える人と結婚してほしい。