冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて



 自分の荷物をまとめて、私の分と渡されていたカードキーとお金を入れた封筒を玄関の戸棚に置く。


「一希さん、お部屋のカードキーは玄関に置いてあります。ありがとうございました」

「ーー気をつけて」

「……お邪魔しました」


 ぺこりと頭を下げ、一希さんの家を後にした。重い足を一歩一歩踏み出し、少しずつ前へと進む。


 ぽっかりと穴が空いてしまったように感じる。


 それほどまでに一希さんとの生活は充実していて、とても楽しくて心地が良かった。本当は離れたくなかった。出ていきたくなかった。今の職場も辞めたくない。でも、離れることしか思い浮かばなかった。


 一希さんにだけは嫌われたくなかった。ずっと一緒にいたかった。

 そう思う度に涙が止まらなくて泣きながら進んでいると、


「詩織!」


 背筋が凍る。


 一番聞きたくない人の声が聞こえてきた。


 顔を上げるとお母さんが目の先に立っていた。私を見て嬉しそうに微笑み近づいてくる。


 ーーなんでここにいるの? やばい、逃げないと……そう思うけれど足が動かない。


「なーに泣いちゃって。どうしたの? あっ、分かった。あの人とダメになったんでしょ」


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