冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


「…………」


 『違う』と答えなきゃいけないのに、頭が回らない。

 なんでお母さんがここにいるの。いつからいたの? まさか、ずっと私の後をつけてたの?


「さ、家に帰るわよ。荷物貸して。お母さんが持ってあげるから」

 お母さんは私の腕からぐいぐいと荷物を引っ張る。荷物を離さないように手に力を入れる。


「やめてよ! もう私、お母さんとは縁切るから!」

「縁切れるわけないでしょ。バカなこと言ってないでさっさと来なさい」


 腕を掴まれ引きずられるように歩くと、曲がり角に黒いワゴン車が停まっていた。


 車のドアをおもむろに開けると、背中を押され、無理やり後部座席に乗せられてしまった。あきらかに怪しい車にびくびくと怯えながらお母さんに視線を移す。お母さんは私を車に乗せると、自身も乗り込み「出発してちょうだい」と運転手に向かって声を上げた。


 ミラー越しに運転手を見ると、黒いサングラスを掛けていて、髪はオールバック。首には龍のようなタトゥーは入っていて明らかに危ない人のような気がした。普段お母さんがどこで何をしているのか分からなかったけれど、こんな危険な人と会っているんだと思ったら、母のことも怖く感じてしまう。


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