冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 このことは言わないほうがいいかもしれない。


 ただでさえ、今回の件でショックを受けているお父さんに、更にショックを与えてしまう。仮にもお父さんが好きだったお母さんを、これ以上最低な人にしてはいけない。


「お父さん、もういいよ。お父さんが元気そうで良かった」


 お父さんは泣き出しそうな表情で私を見つめ、「詩織……」と、呟いた。


「お父さん、詩織さんはずっとお母さんから経済的DVをされていました。実際、僕らが働いている店舗に来て詩織さんに金銭を要求しているところも見ています。その時僕が速やかに警察に連絡していたらお父さんにも迷惑をかけずに済んだかもしれないです」


 一希さんはお父さんに「僕も謝ります。スミマセンでした」と頭を下げた。


「一希くんは何も悪くないよ。ただ、私も離婚したとはいえ、毎月生活に困ることはないくらいの金銭はお母さんに渡していたんだ」


「…………そうなの?」


「ああ。それなのに詩織にねだるなんて。私はなんと言ったらいいか……せめて、お母さんに支払った金額を詩織に返していきたい。いや、返させてくれ」


 お母さんは私が渡すお金がなかったら生活できないと思っていたけれど、私がいなくてもお父さんから貰ってるお金で十分やっていけたんだ。


「いらない。このことは私とお母さんの問題で、お父さんには関係ない」

「私は詩織の父親なんだ。関係ないわけないだろう……」

「――でもいいの。お母さんに渡してたのは私の意思だったんだから。お父さんは気にしないで」


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