冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 …………え?
 僕に下さいってなに?


 一希さんがお父さんに向かって頭を下げていることが理解できなくて、「僕に下さい」と言ってくれていることにも頭が回らなくて呆然としていると、お父さんはふふっと笑った。


「詩織を悲しませないって約束できるかな?」

「はい、もちろん」

「うん。一希くんほど、詩織を大切にできる人はいないと思うよ。詩織をよろしく頼む」


 お父さんは少し悲しそうな目をしながら、「あわよくば詩織とまた一緒に暮らせるかなと思ったが、都合がよすぎたね、ははっ」と笑った。


 お父さんから一希さんに視線を反らし、

「……一希さん、僕に下さいって」

 回らない思考で質問をする。


「ニューヨークに一緒に来てほしい。半年後、また戻らなくてはいけなくて、もう日本に戻ることはないと思う」


 …………そ、そんな。

 いつか、もしかしたらまた、一希さんがあっちに戻ってしまうかもしれないと思っていたけれど、そんな日が本当に迫っていただなんて。


 一希さんがいる生活に慣れきってしまっていた。


< 59 / 66 >

この作品をシェア

pagetop