冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて
「ここまで育ててくれたのはお父さんだよ! お母さん、何もしてくれてないじゃん! しばらく出ていくから!」
いつも持ち歩いている必需品のみが入った鞄を抱え、玄関へ向かう。
「行くってどこに行くのよ!? 勝手に出ていくだなんて許さないからね!」
私に縋る母を無視して家を飛び出した。
お父さんが出て行って約8年。自分なりにお母さんを支えてきたつもりだった。けれど、お母さんにとって私はお金でしかなくて、母から愛情を受けたことなんてない。
あんな事を言って出てしまったけれど、もうすぐ給料日。母は仕事をしていないし、私がいなければ生活をしていけない。
近々、顔を会わせなくてはいけないと思うと億劫で、その晩は金銭的に抑えるために近くのネットカフェを利用した。
――翌日。
私、相澤詩織は、寝不足のままお店へ出勤した。
「おはようございます。今日も一日よろしくお願いします」
開かない目をかろうじて開きながら、事務所内に入り早出のスタッフに挨拶をすると、
「なんだ、そのだらしない格好は。服もよれていて髪もだらしないじゃないか。そんな格好でお客様の前に立つ気か!?」
事務所の奥から、ニューヨークに行っていたはずの橘一希が、私の前に顔を出した。