冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 久しぶりに目にしたその風貌は、以前にも増して色気を増し、男らしさも相まってとても大人っぽく見えた。


 事務所のテーブルに座っている従業員の原口さんと大学生の川本くんが首をブンブンと振り、何か言いたげな様子で私を見ていた。


 川本くんが何かを口パクで伝えようとしてくれている。目を凝らして見ると、『れ・い・こ・く』と言っていることが読み取れた。


 ……冷酷? 冷酷って誰が?


「相澤、いい態度だな。俺の話も聞けないってか?」


 その声で、私の視線は自然と橘さんに向いた。


 ……冷酷って、まさか、橘さんが? あの優しかった橘さんが?


 信じられない。けれど、今目の前で怒りを露にしている人物は紛れもなく橘さんだ。


 よれよれの服で、化粧も大雑把。いつもきっちりセットする髪もグチャグチャ。そんな酷い容姿で出勤してしまったのは私が悪い。けれど、こんな格好で出勤でもしようものなら以前は親身になって聞いてくれていた。


 昔の橘さんを思い出しながらも、だらしない格好で来てしまった私が悪いので、「スミマセンでした」と頭を下げて謝った。


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