プライベートレッスン
「起きてくださいよ」
誰かが体を揺らした。
「ねぇ、起きてくださいよ」
ぼやけた視界から女の顔が見える。俺が大好きな赤坂エリだ。
「ちょっと時間かかりましたけど、なんとか作りましたよ」
トマトケチャップの強い臭いが鼻につく。それに卵の臭いが混ざり皿の上の物体はとてつもなく嫌な臭いを発していた。
「・・・なにそれ?」
「オムライスですよ。超おいしそうじゃないですか?」
「そうだね、おいしそうだね」
「でしょ?」
夢の中まで眠りの邪魔をしないでくれよ。
まてよ、夢の中なら彼女に何をしてもいいワケだよな?
俺の夢なんだから、文句を言われる筋合いはナイ。
「エリ。好きだよ」
彼女の腕を掴み強引に引っ張る。
「えっ?」と彼女は声を漏らして俺の腕の中に吸い込まれる。
「好きなんだよ。ずっと昔から好きなんだよ」
俺は力の限り彼女を抱きしめた。
「ちょっと困りますって!痛いです!」
俺は今、赤坂エリを抱きしめてるんだ・・・夢の中だけどさ。
「痛いです!ちょっと止めてください。痛いっ!」
「結婚してくれよ!軽井沢に家を建てて子供とキャッチボールして」
”バチーン!”
乾いた音の後に頬から強烈な痛みが脳に伝わる。
あまりにも現実的な痛みに眠気が吹っ飛んだ。


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