筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「ハアハァ……死ぬかと思いました」
「す、すまない。今度から抱きしめる時は姿を戻すのを忘れないようにする」

 そう言いながらゴリラの姿から人間に戻ったブレイズ様は――やっぱり上半身裸だ。

「また破いたのですか? 今月何枚目だと……」
「サイモン、大丈夫だ。今回は脱いでから姿を変えたから、シャツ自体は無事だ」
「ならば、せめてそのシャツを持ってくるようにしてください。そんな雄々しい筋肉丸出しにしていてはローズ様に引かれますよ? もう男所帯じゃ無いんですから、気をつけてください」
「腹筋が素敵……」

『引かれる』ではなくて『惹かれている』私ならここにいます。

「……ローズ様、ブレイズ様を甘やかさないでください。そしてブレイズ様はあの書類の山は片付いたのですか?」
「勿論だ。ローズを質に取られた俺のやる気を舐めないでくれ」
「腹筋も良いけど、外腹斜筋のラインもセクシーで素敵……」
 
 もう場がカオスになってきた所で、集まっていた人々から野次が飛び交い始めた。

「ブレイズ様、一人抜け駆けしてズルいですよ!」
「そうだそうだ、不可侵条約はどこに消えたんだー!」

 ブレイズ様は私を隠すかのようにその体を盾にして皆の視線を遮る。おかげで私の視界は素敵な広背筋でいっぱいだ。眼福である。

「皆には申し訳ないが、赤薔薇の聖女は俺の婚約者となった。熱の籠った視線を向けるのはやめてもらおう」

 多分この場で一番熱の籠った視線を送っているのは、貴方の背後にいる私ですけどね? ブレイズ様。
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