筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「どうやら俺に知られたく無い事があるようだが……ローズ、俺を怒らせて楽しいか? あと、椅子はもっと良い素材のを使え。体を悪くするぞ」
「いえ……その……」

 私基準で壮絶なイケメンのブレイズ様が、椅子に座っていた私を軽々と抱き上げて。精悍で彫りの深い顔が真正面にくるようにされ、私の心臓が跳ねる。
 怒りで歪んだ顔にすら心ときめいて心臓の鼓動が早くなってしまう私は、もうだめかもしれない。

「やはり涼しげな顔の魔術師の方が好きなのだろう? なぁそこの魔術師……少々顔が良いからといって、俺の婚約者と睦まじくするのは」
「違います! ブレイズ様、どうか怒らずに私の話を聞いてくださいませ」

 せっかく私に相談してきてくれた魔術師に嫌疑がかかり始めたので、慌ててブレイズ様の暴走を止める。

「いや、内容によっては当然怒るし、手荒い事をしてしまうかもしれぬが」
「あの、私は自分に回復魔法を掛ける事が出来ないので……罰を与えられるのであれば、死なない程度にしていただけるとありがたいです」

 強化魔法や少々使える防御魔法である程度は耐えられるが、相手がブレイズ様だと威力を殺し切れずに傷を負う可能性の方が高い。

「ローズは何か勘違いをしている気がするのだが……まぁいい。それで、何があったんだ?」

 私がおずおずと内容を話し始めると。初めは厳しい顔をしていたブレイズ様は次第に「なんだ、そんな事か」といった風に力を抜いて。すぐ側ですっかり恐怖で固まっていた魔術師に「もう行っていい。誤解してすまなかった」と謝った。魔術師が脱兎の如く逃げ去ったのは言うまでもない。
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