筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む

幻影魔法

「でも一緒に眠っていても、私がこっそり抜け出したら分からないのでは?」

 初日のような薄い夜着ではなく、丈の長いワンピースような夜着を纏った私は、今日の日中の出来事を思い出して、隣で眠るブレイズ様に問いかけた。ちなみに私の夜着のデザイン変更はブレイズ様が言い出した事で、どうやら可愛らしい系がお好みのようである。

「俺は戦場で五年も暮らした男だぞ? そんな気配がすれば目が覚めるに決まっている。実際ローズは一回も俺の腕の中から抜け出した事は無い。違うか?」
「合っていますけど……どうして私と逢引き予定という話が出るのか分からなくて。そっくりさんでも居るのかしら?」

 私は隣に眠るブレイズ様の腹筋の割れ目を指先でツ――っとなぞりながら考える。ブレイズ様は少しくすぐったそうに笑いながら、大きな手で私の前髪をかきあげて額に口付けを落とした。

「それは恐らく幻影魔法だ。メルエー王国の得意戦法の一つで、例えば好いた女の姿を見せて誘導し、罠に嵌めたり油断した所を襲う。まだそんな魔法に惑わされる兵士がいたのは問題だな。……しかもその幻影がローズというのが笑えない」

 そういえば治癒院で働き出した当初に、そんな話を聞いたことがある。だからこそ、この国の魔術師たちは入念に防御魔法を張るようになり、私もその時に初めて防御魔法を練習した。
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