筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
 そして「イケメン祭り」兼「筋肉男子祭り」当日。ウィルドハート辺境伯領から三日かけて馬車でやってきた私とブレイズ様は王宮の周りに発展した街の中心部にいた。
 使い捨て感覚で婚約破棄され追い出された王宮のすぐ足元。統一された赤い屋根の街並みが美しいこの街に感傷的な気分になるかとも思ったが。全くそんなことは無かった。だって――、

「わぁ……ッ! ブレイズ様見てください、街中がイケメンだらけですよ!?」
「別に俺は男を見る趣味は無いのだが……」
 
 街を行き交う筋肉質な男性達を見て目を輝かせる私と、そんな私を見て呆れるブレイズ様。辺境伯という高位貴族であるブレイズ様は目立つ訳にはいかないので周囲に溶け込めるよう商人に変装しており、私もそれに合わせて商家の娘くらいの格好をしている。 
 一般的な「イケメン」に混じって私基準の「イケてる筋肉メンズ=イケメン」もちらほらと。とにかく周囲は男性で溢れかえっており、それを少し離れた場所から女性達が眺め黄色い声をあげている。当然その対象は一般的なイケメンの方だろうが、私はそちらには興味がない。

「じゃあ女性を見る趣味ならありますか?」
「ある訳ないだろう! 俺はいつだってローズ一筋だ」
「うわぁ、あの人脱いだら凄そうだなぁ……。あっちの人は手も大きくて素敵」

 ブレイズ様との会話は話半分で、キョロキョロと辺りを見渡しながら好みの筋肉を探す。手持ちのカバンから観劇用のオペラグラスまで取り出して完全に本気モードである。

「……ローズは筋肉質な男なら誰でも良いのかも知れぬが」
「何か言いましたかブレイズ様……あ! あの人、すごく格好良い!」

 その瞬間、私のオペラグラスは取り上げられて、手を引かれ人混みの少ない方へと連れて行かれる。そして路地裏に入った所で建物の壁に押し付けられた。
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