筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「ローズとの婚約は今日限りで破棄させていただく」

 季節の花が咲き誇る王宮の庭園で、私に告げられたのは、非情な言葉。つまり私は……戦争の駒でしかなかった。王家は第二王子の婚約者という肩書を利用して、批判無く未成年の私を戦場で使いたかっただけ。

「待ってください! 破棄って、そんな……」

 急にそんな事を言われても、第二王子の婚約者になって五年。ずっと戦場後方の治癒院で暮らして来た私には、他に居場所すらない。二十歳にもなれば独り立ちする年齢なので、もう孤児院には帰れない。

 王子らしい金髪の髪に青色の瞳。高位な魔法使いである為にヒョロリとした、この世界では「超イケメン」である第二王子レオン様は、戸惑う私に向かって数枚の金貨の入った小袋を投げつけた。選別のつもりだろうか。

「私は和平の印としてメルエー国の姫を娶ることになった。用済みのお前は辺境伯ブレイズ・ウィルドハートへ嫁げ。奴には戦争の褒賞をやらねばならん」
「褒賞!?」

 私の預かり知らぬ所で、私の今後は勝手に決められてしまったようだ。第二王子の婚約者という肩書を外されてしまえば……貴族、ましてや王子に逆らえる訳がない。私は褒賞という「モノ」として、誰かも知らない人間に嫁ぐのだ。

「侯爵に次ぐ辺境伯という地位を持ち、更に戦果をあげた者に嫁ぐなんて、悪い話ではないだろう? 向こうだって、第二王子の元婚約者が貰えるんだ。文句はあるまい」

 ……元々平民の婚約者なんて要らないのでは? と思うが、それを口にするだけの勇気はない。
 
「ならば、せめてもの情けとして……辺境伯様に嫁ぐまでの住まいだけ、提供してもらえませんか?」

 逆らえないのなら、前を向いて進むだけ。
 
 そうして私に情けをかけてくれたのは……レオン様ではなく、嫁ぎ先の辺境伯ブレイズ・ウィルドハート様だった。事務的な婚約手続きをしただけで顔合わせすらまだの私に、領地にある屋敷に住んで良いと伝えて来たのである。
 ありがたくそのお話をお受けした私は、戦場から持って帰ってきた古びた鞄一つを持って、王宮から馬車で三日の距離にあるウィルドハート辺境伯領へと向かったのだ。
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