筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「メルエー王国仕込みの幻影魔法だから破られぬと思ったのが迂闊だったか」
「それで、私は何故王宮にいるのですか?」

 確か私はゴリラと追い駆けっこしていたはずだ。そしてその途中何者かに腕を引っ張られたところで記憶が途切れている。レオン様はこの国の王子であるが、優秀な魔術師でもある。きっと睡眠系の魔法でも掛けられ連れてこられたのだろうが、その目的が分からない。

「ローズにはやはり私の元で働いてもらおうと思ってね。意外とウィルドハート辺境伯の守りが硬く刺客じゃどうにもならなかったから、私が動く羽目になってしまった」
「働く?」

 ニヤリと上がるレオン様の口角。それに警戒心を強めると、レオン様は腹部を押さえていた手をこちらに伸ばし、握っていた拳を開いた。その手に握られていたのは赤色の薔薇を模った水晶。

 ……迂闊なのは私だった。元婚約者の得意な魔法くらい、よく考えれば分かっただろうに。

「服従魔法だ。ローズは先程、私の元に永遠にいると約束し、それを叶えると約束した。これで私の元からは離れられまい」

 約束してしまったが最後。あの水晶がある限り、私は魔法に拘束されレオン様の命令に反することはできない。いくら口で「嫌だ」と拒絶しても、体はレオン様が命令すればその通りに動く。

「ローズの浮気でも偽造すれば簡単に手放してくれると思ったんだがな。醜男の執着が思ったより粘くて大変だったよ」

 一時心肺停止という危険な状況に陥った兵士の件の事だと直ぐに分かった。そんな理由で人の命を危険に晒しただなんて……。
 
「どうして……私と婚約破棄して追い出したのはレオン様の方でしょう!?」
「結果論だが駒としてローズの方が使い勝手が良かった。ある程度従順で、私とは得意な魔法の系統も違う。だから婚約者を交換しようと思ってね。ローズと、メルエー国の姫『アドラ』……別に構わないだろう?」
「絶対に嫌です! そんなのアドラ様だって可哀想よ」
「アドラは乗り気だぞ。ローズより美人で同じく醜男フェチ。『筋肉男子祭り』なんてふざけたイベントを企画するくらいだから、辺境伯もお気に召すだろう。今頃向こうは向こうで対面しているはずだし、なんせアドラは幻影・魅了魔法にしか能がない。今頃骨抜きにしているだろうさ」
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