筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「仕方がありません。無事ブレイズ様と一緒に帰るまで、邪魔される訳にはいかないので」
 
 地面に突っ伏した兵士から剣を拝借して、私はブレイズ様に向かって投げた。難なくそれを受け止めたブレイズ様は――徐にその剣で地面を突き刺す。その剣が刺さった場所では、幻影魔法の粒子がトグロを撒いていた。

「チッ……どうして分かるのよ」

 すぐ近くで伸びていたはずのアドラ様が地面に這い蹲るような形で此方を睨み付けている。ブレイズ様はため息を一つ吐いて地面から剣を引き抜いて。彼女に負けない程強く睨み付けた。
 
「俺が戦場でどれだけこの魔法を見てきたと? しかしお前が見せた幻影だけは許せぬ。命を取られたくなければ黙ってそこで寝ていろ。本当は刺し殺したい位だ」
「一体どのような幻影を見せられたのですか?」

 ブレイズ様にそこまで言わせる程の幻影の内容がむしろ気になる。

「本当なら口にもしたくないが、ローズが第二王子と寝屋を共にする幻影を見せられた。……ディティールが細かくて気が狂うかと思った」
「あ――……それは嫌ですね」

 同じ筋肉フェチなら仲良くできるかと思っていたのに。どうにも性格が合わなさそうなので……私は今後も一人で趣味を楽しむ事にする。それにブレイズ様の筋肉は……ううん、ブレイズ様は私だけのものなんだから!

「アドラ様、ごめんなさいね。ブレイズ様は私にしか目が無いのよ。諦めて下さい」

 私はブレイズ様の逞しい腕に縋り付くようにして。売られた喧嘩にしっかり嫌味を返し、ブレイズ様と共に次の目標へと向かった。
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